タイムラインに流れてきたスタンドアップコメディの動画や、やたらと完成度の高いGRWM投稿。笑って保存したその人物が、そもそも存在しないとしたら——。

いま海外を中心に、AIインフルエンサーと呼ばれる「架空の人格アカウント」が急増している。顔も声も生成AIでつくられ、運用しているのは個人や代理店。そして彼らは、実在のクリエイターと同じ市場で広告費とフォロワーを奪い合っている。日本でもバーチャルヒューマンの広告起用は珍しくなくなり、他人事ではなくなってきた。

AIインフルエンサーとは何か

AIインフルエンサーは、画像や動画を生成AIでつくった架空のキャラクターに名前とSNSアカウントを与え、あたかも実在の人物のように投稿していく手法を指す。モデル風、ライフスタイル系、ネタ動画系など見た目のジャンルはさまざまだが、共通しているのは中の人がカメラの前に立たなくていいという点だ。

日本でも、バーチャルモデルの「imma」が化粧品ブランドの広告に起用された例があり、海外ではファッションブランドのキャンペーンに登場したデジタルモデルも知られている。企業側から見れば、スケジュール調整も炎上リスクの読みづらさも減る「扱いやすいタレント」に映るわけだ。

どうやって作られているのか

SNSに出回っている手順は、だいたい次の流れに集約される。

  • キャラクター設定を決める:年齢、職業、話し方、投稿テーマを言語化する。生成AIチャットに設定づくりを手伝わせるケースも多い
  • キャラクターシートを作る:同じ顔を正面・横顔・全身など複数角度で出力し、見た目のブレを防ぐ参照画像にする
  • 動画化する:動画生成ツールに参照画像を読み込ませ、人物を差し替えたり、しゃべるアバターを生成したりする
  • 音声を足す:音声合成サービスで声を当て、口の動きと同期させる

問題はこの3番目だ。自分でスマホ撮影した映像の人物をキャラに置き換える使い方なら、まだ「表現の道具」と言える。ところが実際に拡散しているノウハウには、バズっている他人の動画をダウンロードし、動き・照明・構図はそのままに演者だけ入れ替えるという手口が堂々と含まれている。

架空の人物がどうやってお金を生むのか

再生数がそのまま収入になるわけではない。収益化の入り口は主に3つある。

1. プラットフォームの収益分配

YouTubeはパートナープログラムで広告収益を分配するが、「汎用テンプレートで量産した、独自の視点のないAIコンテンツ」は収益化対象外という方針を示している。TikTokの報酬プログラムも一定の長さとオリジナル性が条件で、Instagramのリールは単体の再生数では直接お金にならない。つまり再生数だけで食べるのは難しい。

2. ブランド案件

架空キャラであっても、フォロワーが多ければ企業からPR依頼が届く。ここで日本特有の注意点がある。2023年10月から景品表示法のステマ規制が始まり、広告なのに広告と分からない投稿は違反になり得る。キャラがAI生成であること自体より、「広告である事実を隠していないか」が実務上の論点になる。

3. 有料サブスク・情報商材

無料投稿を入口に、ファンクラブ型の有料プラットフォームへ誘導するパターン。さらに「AIキャラの作り方」を教える有料コミュニティや講座を売る、いわゆるノウハウ販売も目立つ。先に儲けているのは、ツールと教材を売る側というのはよくある構図だ。

現場のクリエイターが怒っている理由

海外では、スタンドアップコメディアンが自分のネタと衣装、仕草までコピーされ、AIキャラが同じネタを演じる動画が数十万再生に達する事例が相次いだ。被害を訴えた芸人は「通報する手段すらない」と漏らしている。

日本でも構造は同じだ。トーク番組の切り抜き、ネタ動画、料理のレシピ動画——発信のフォーマットが整っているものほどコピーしやすい。しかも厄介なのは、ジョークのアイデアそのものは著作権で守りにくいという点。表現としての台本や映像には権利が及んでも、「発想」だけを真似された場合は争いにくい。

加えて、こうしたAIキャラの多くが極端に強調された体型で描かれる傾向も指摘されている。注目を集めやすい見た目に最適化された結果、現実の人間が比較される土俵に立たされてしまう側面がある。

作る側・見る側が押さえておきたいこと

  • オリジナルの記録を残す:ネタ帳、撮影データ、初出の投稿日時はトラブル時の証拠になる
  • 自分の顔と声を預けすぎない:アバター生成サービスに素材を渡す際は、学習利用の可否を規約で確認する
  • 企業はAI起用を明示する:生成AIによる人物であることを伏せたまま体験談風に語らせるのは、広告表示の観点でリスクが高い
  • 視聴者は「中の人がいない前提」で見る:レビューも使用感も、実体験ではない可能性がある

結局のところ、AIキャラが強いのは量産スピードだけだ。顔を出す必要がないからこそ、人間の側は経験と視点という、コピーされても劣化する部分で勝負するほうが長続きする。まずは自分の声と表情をきちんと届ける環境を整えるところからだ。

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よくある質問

AIインフルエンサーの投稿は、AI生成だと表示する義務がありますか?

日本では一律に表示を義務づける法律はまだありませんが、広告として投稿する場合は景品表示法のステマ規制により「広告であること」を明示する必要があります。各SNSもAI生成コンテンツのラベル付けを求める方針を強めています。

自分の動画がAIキャラにコピーされたら、どうすればいい?

まずは該当投稿のURL・スクリーンショット・自分の投稿日時を保存し、各プラットフォームの権利侵害報告フォームから申し立てます。映像や台本を流用された場合は著作権侵害として争える余地があるため、悪質なケースは弁護士への相談も検討してください。

企業がバーチャルタレントを広告に使うのはアリですか?

すでに国内外で実例があり、違法ではありません。ただし実在しない人物に使用感や体験を語らせると誤認を招くため、AIであることの明示と、表現内容が事実に基づくかの確認が欠かせません。

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参考: Fake influencers, real money: Inside the AI creator business(Mashable)の内容をもとに、日本の読者向けに独自に構成しています。

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